

森に耳を澄ませ、その感性とチューニングすることで身のまわりの自然や文化を再発見しようとした初回の芸術祭の考えを一歩進め、今回は「前に進む森」という新しい視点を掲げます。それは、今日よりほんの少し良くなっていく明日へ向かって、ゆっくりと変化し続ける森の姿です。このイメージの背景には、ケヴィン・ケリー(※)の提唱する「プロトピア」という考えがあります。それは、理想郷(ユートピア)でも悲観的な未来(ディストピア)でもなく、日々の小さな改善の積み重ねによって、現実の中でよりよい社会を育てていこうとする視点です。
本芸術祭では、このプロトピアの思想と、社会的共通資本の考え方を重ね合わせます。それは、芸術祭を起点として、テクノロジー、農業、福祉、教育など、さまざまな分野の人々が出会い、協働する場をひらきます。そして、自然やインフラ、制度といった、私たちが共有する大切な基盤を守りながら、次の世代へとつないでゆきます。
「森の芸術祭 晴れの国・岡山」2027は、岡山県北部を舞台に、地域に眠る資源や文化をあらためて見つめ直し、小さな実践を積み重ねていきます。それは作品をつくることにとどまらず、人と自然、文化と暮らしの関係をゆるやかに編み直していく試みでもあります。こうしたプロセスを通じて、訪れる人にも、そこに暮らす人にも、新しい視点や誇りが生まれ、地域の内側から未来へ向かう力が育まれていくことを願っています。
※アメリカの編集者・思想家・テクノロジー評論家。テクノロジーと社会、未来予測に関する著作で知られ、雑誌『WIRED』の創刊編集長の一人。人工知能やインターネット、分散型社会について早くから論じてきた人物として、世界的な影響力を持つ。

キュレーター/美術史家
京都大学経営管理大学院 客員教授
国際文化会館アート・デザイン部門プログラムディレクター ほか
京都大学法学部卒業、東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了、水戸芸術館学芸員、ホイットニー美術館客員キュレーター、世田谷美術館学芸員、金沢21世紀美術館学芸課長及び芸術監督、東京都現代美術館チーフキュレーター及び参事、金沢21世紀美術館館長を経て現職
文化庁長官表彰(2020)。イスタンブール(2001)、上海(2002)、サン・パウロ(2010)、シャルジャ(UAE)(2013)、モスクワ(2017)、コラート(タイ)(2021)などでビエンナーレを企画。
日本の現代美術、ジェンダーやエコロジーに関する著作として『キュレーション 知と感性を揺さぶる力』、『破壊しに、と彼女たちは言う:柔らかに境界を横断する女性アーティストたち』、『ジャパノラマ-1970年以降の日本の現代アート』、『新しいエコロジーとアート-「まごつき期」としての人新世』など


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