【特集記事】耳で、肌で、感覚のままに味わう
森の芸術祭の巡りかた(日帰り/津山〜奈義エリア)

2024. 10. 31


 
表現者として広く活動するSUMIREさんを迎え、森の芸術祭のメインエリアである津山〜奈義エリアを巡った。泊まりがけでゆっくり見て回るのもよいが、時間が限られる方に向けて見どころをおさえた日帰りコースを紹介する。
 
「アートフェスティバル」をテーマにスタイリングした、ヴィンテージのワンピースと、シューズがアート鑑賞の気分をより高めてくれる。
 

9:30 見える世界への問いかけをもたらす、奈義町現代美術館へ

 

 
サイトスペシフィックアートの先駆けとなった<奈義町現代美術館(磯崎新設計)>では、坂本龍一+高谷史郎によるインスタレーションを展開する。半屋外の展示室「大地」に設置された作品は、能楽師の笛の奏でによる和音独自のゆらぎと、水の氾濫をスローモーションに変換した映像によって観る者を芸術と内省に導く。
 
常設作品である宮脇愛子のステンレスワイヤー《うつろひ — a moment of movement》の庭で、〈拡がりと厚みに包まれ〉ながら、SUMIREさんは言う。
 
「ここにいると目だけではなく、耳や空気で受け取る身体的な広がりを感じます。ぬけるように高い秋の青空に対するモノクロームの映像と和様の音の響き、ワイヤーが描く弧、砂利で敷き詰められた隣室の床……それらの異なるものが美しく共鳴する風景の一部に、まるで自分も同化したかのようです」
 

© 1994 Reversible Destiny Foundation. Reproduced with permission of the Reversible Destiny Foundation.

 
常設作品である、荒川修作+マドリン・ギンズ作品の展示室「太陽(遍在の場・奈義の龍安寺・建築する身体)」では、訪れたすべての人を、前方からの厖大な光の圧があまねく襲う。それと前後して、鑑賞者は自らの平衡感覚が常時とは異なる状態にあると戸惑いを覚えることになる。
 
真南を向く空間には、円筒の中心軸を対称に龍安寺そっくりの小さな石庭が左右に配されているが、踏み入ることはできない。一連の体感から、意識が身体から、あるいは身体が意識から前のめりにズレたかのような、言いようのない不安やギャップを立ち上がらせる。視覚優位の美術鑑賞に対する、一種のアンチテーゼを作品が内包し、鑑賞者はその中に取り込まれる仕掛けだ。
 

 


奈義町現代美術館
〒708-1323 岡山県勝田郡奈義町豊沢441
 

 

10:30 浮遊する無限の森に分け入る、すぱーく奈義

 

奈義現代美術館から道路を挟み向かい側の会場<すぱーく奈義>には、金沢21世紀美術館の「スイミング・プール」に代表されるレアンドロ・エルリッヒの大型作品がある。見過ごされがちな自然の風景に再び目を向け、その重要性を強調するための本作品では、森に囲まれた吊り橋を渡る鑑賞者の頭上から300本の木々を真下に吊るした。一見すると水面に見える床の鏡面には、風を受けてうごめく「森」が映し出される。
 
「木々の香りや『見えないものの気配』を介して、本能でなにかをキャッチさせる感覚がここにはありました。桃源郷のように美しい森と川に迷い込んだような気分にもなりますが、なにかが違います。自然を人工物で模しているからなのか……うまく言えませんが、今後の自身の制作にとっての新しい視点を与えられたように思います」
 

 


すぱーく奈義
〒708-1323 岡山県勝田郡奈義町豊沢324−1
 

 

11:30 石窯ピザの名店、ピッツェリア・ラ・ジータへ

 
大通りに戻り、奈義町現代美術館の隣にある<ピッツェリア・ラ・ジータ>へ向かう。ここは、イタリア政府公認の真のナポリピッツァ協会から、世界で415番目の認定を受けた本場ナポリピッツァを食することができる。
 
生地に使用する原材料は本場と同じく、粉、塩、酵母、水のみ。「マンマの手作りトマト」のようなナチュラルな味わいのトマトソース、最高のモッツァレラチーズの産地であるカンパーニャ州(イタリア)産のフレッシュチーズを用いた、店主こだわりの一枚を求めて一度は訪れたい。平日でも町内外から来客がある。訪問時は、予約必須。
 


ピッツェリア・ラ・ジータ
〒708-1323 岡山県勝田郡奈義町豊沢438−1
08-6820-1171
 

 

13:30 野原に現れる紅を目指して、グリーンヒルズ津山へ

 

 
一面の原っぱに突如として現れる、エルネスト・ネト《スラッグバグ》。物質や力、存在などさまざまなものの間にある関係性を主なテーマとするネトが今回生み出したのは、赤と黄からなるナメクジの形を借りた作品だ。指編み、鍵編みを自身で行ったカラフルな網が竹の支柱によって支えられ、多方を地元産の石を重しにすることで、杭を使わずに自立する絶妙な構造を成立させた。
 

 
遠くから眺めると、作品の四方に鉢植えがランダムに配置されていることがわかる。
 
「植木鉢は、まるで縄張りを決めているかのよう。それによって一見無関係に思えるオブジェクト同士に新たな関係性が生まれて、空間をまるごとひとつの作品に変えてしまう面白みを感じます」
 

 


グリーンヒルズ津山
〒708-0806 岡山県津山市大田
※ 2024.11現在、土、日、祝の9:00〜11:00、13:00〜17:00の時間帯は作品への立ち入りが可能。
 

 

14:45 津山城で、竹を体で感じる

 

 
「竹という古くからある素材の見え方が一変しました」とSUMIREさんが語る、アシム・ワキフ《竹の鼓動》は、複雑に入り組んだ高さ約10メートルの石垣を背景に、竹の丸太を即興的に組み上げた構造体。アジアにおいて居住空間やしつらえの一部として、古代より親しまれてきた里山の素材は、大型のプールに貼られた水に浸され、柔らかくなった竹を曲げる製法によって成形された。
 
作品の内部もまた流線型の竹ひごによって装飾され、鑑賞者が叩いて音を鳴らすことのできる竹ドラムが仕掛けられている。
 

 


津山城
〒708-0022 岡山県津山市山下135
 

 

15:00 自然まかせの無限光を浴びる、津山まなびの鉄道館

 

 
本芸術祭において、自然のままならなさ及び人間のアンダーコントロールをより感じさせる作品であるキムスージャ作の《息づかい》。高さ8メートルの巨大な機関車庫空間に配された2188 枚全ての窓は回析格子フィルムで覆われ、多彩な光のスペクトルが映し出される。
 
光という非物質的な素材を用いて、韓国の伝統色彩である五方色(オバンセク)や五行説が象徴する宇宙の構造を表現しようと試みた本作品は、太陽の向きや日差しの強さによって、現れる色相や伸び、位置などが大きく変わる。
 

 
「光に当たる時、自分が見ている色と、写真で撮られた私が浴びた色との違いが興味深いです。光の当て方によって、同じ人間でも異なる側面が見えてくるかのように、物事の多面性について思いを馳せる時間となりました」
 
プリズム窓は車庫内外によって見方が変わる。時間帯や天気の違いを楽しむのも一興だ。光が伸びきるのはおおよそ日没前の夕方ごろ。
 


津山まなびの鉄道館
〒708-0882 岡山県津山市大谷
 

 

 
鑑賞を終えたSUMIREさんが、一連の作品鑑賞を振り返る。
 
「作品に共通して感じたのは、大きくて優しさがあること。素材を扱うのではなく、まるで作り手自身の心を楽しませるように、素材を『遊ぶ』ように作ったのではないかと感じられました。
 
私は作品に対する時、じっくりと観察したり写真を撮ったりすることなく、瞬間的に体で受け取る感覚——言葉にできるものではありませんが——、衝動が全てだと思う性分です。そこで蓄積されたものが、役を演じる時の『いい顔』に繋がりますし、転じて『いい作品』へと貢献すると考えています。『いい顔』というのは、笑顔などのわかりやすい感情の発露ではなく、自分が培った生の感情から生まれる全ての表情や態度のこと。それらを蓄積するという意味から、今日は満足のゆくいいエネルギーに出会うことができたように思います」

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SUMIRE
1995年生まれ。俳優、モデル、アーティスト。2014年から『装苑』専属モデルを務める。18年に映画「サラバ静寂」で俳優としての活動をスタート。映画、ドラマ、広告など幅広く活躍。主な出演作に、「リバーズ・エッジ」(2018)「ボクたちはみんな大人になれなかった」(2021)、ドラマ「階段下のゴッホ」(2022)、「THE TRUTH」(2023)「インフォーマ -闇を生きる獣たち-」(2024)などがある。23年秋には、アーティストとしての初個展「たまごがゆめをみていた」を開催。
 
Md SUMIRE
Ph Hiroyuki Otaki (BRIGHTLOGG inc)
HM Haruna Kitou
Ed & W Yuria Koizumi
Ad Mai Masubuchi (BRIGHTLOGG inc)

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「森の芸術祭 晴れの国・岡山」は11月24日(日)に閉幕しました。

たくさんのご来場ありがとうございました。

2024.9.2811.24
閉幕まで あと9

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