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蜷川実花 with EiM
蜷川実花 with EiM《深淵に宿る、彼岸の夢》2024
森の芸術祭 岡山
撮影:蜷川実花
深淵に宿る、彼岸の夢
Dreams of the Beyond in the Abyss
「深淵に宿る彼岸の夢(Dreams of the Beyond in the Abyss*)」は、岡山県にある満奇洞という鍾乳洞を舞台に展開される体験型のアート作品です。鍾乳洞という異世界へ入る過程で現実の境界を超え、その中で展開されるインスタレーションを通して、鑑賞者の深層にあるさまざまな感情体験を想起するものです。
与謝野鉄幹・晶子夫妻は満奇洞を訪れた際に、「冥府の路を辿るやうな奇怪な光景」と評しました。このように神秘的な美しさを讃える鍾乳洞に足を踏み入れることは、畏敬を感じつつ自然が生み出した悠久の時の流れと対話する行為でもあります。黄泉めぐりともいえる一連の体験は、日本におけるイザナギ神話だけでなく、ギリシャ神話、メソポタミア神話、ケルト神話やマヤ神話など多くの地域で古くから語り継がれるテーマです。鍾乳洞という時間を超える舞台装置は、古来から語られる物語につながる体験を生み出すものになります。
鍾乳洞に入ると鑑賞者は青い光に包まれた空間へと導かれます。満奇洞の内部に拡がる鍾乳石が、青い光の中で幻想的に照らされることで、浄化につながるような感覚を得られるでしょう。青い光の空間は出入口に位置するため、鍾乳洞の狭く曲がりくねった道を通った後の最後の体験にもなります。心の中の迷宮を進むような感覚の後に体験する青い光は、内面的な再生のプロセスを強調します。
鍾乳洞の奥で鑑賞者は、彼岸花が織りなす赤い空間に飲み込まれます。満奇洞の最奥に位置する神秘的な空間の静寂は、彼岸の象徴としての赤い花々と共鳴し、鑑賞者に多様な感覚を呼び起こします。魅惑と不安、生と死、緊張と解放、儚さと普遍、諦観と希望、終わりと始まりなど、彼岸の夢といえる体験がそこにあるでしょう。深淵をめぐった鑑賞者が地上へと帰るとき、そこで見た夢や感情がどのように現実に影響を与えるのか?黄泉めぐりにつながる一連の体験は、鑑賞者に対して多様な感覚と内面的な反応を引き起こします。それが単なる視覚的な美しさにとどまらず、存在や死生観に触れる体験となり、訪れる人々にとって忘れがたいものになることを私たちは願っています。
一番奥にある池には1000本の彼岸花が。此岸と彼岸の境目、空間が揺らいで境界線が曖昧になっていくようなインスタレーションを通し、自分の奥底を旅するような作品になっています。
写真家、映画監督。写真を中心に、映画、映像、空間インスタレーションも多く手掛ける。クリエイティブチーム「EiM」の一員としても活動している。
木村伊兵衛写真賞ほか数々受賞。2010年Rizzoli N.Y.から写真集を出版。
『ヘルタースケルター』(2012年)はじめ長編映画を5作、Netflixオリジナルドラマ『FOLLOWERS』を監督。最新写真集に『花、瞬く光』。主な個展に、「蜷川実花展」台北現代美術館(MOCA Taipei 2016年)、「蜷川実花展—虚構と現実の間に—」(2018-2021年・日本の美術館を巡回)。「蜷川実花展 : Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」(TOKYO NODE 2023-2024年)では25万人を動員。
EiM(エイム)[Eternity in a Moment]
写真家・映画監督の蜷川実花と、データサイエンティストの宮⽥裕章、セットデザイナーのENZO、クリエイティブディレクターの桑名功らで結成されたクリエイティブチーム。プロジェクトごとに多様なチームを編成しながら活動する。主な作品発表に、「胡蝶の旅 Embracing Lights」(安⽐Art Project、2022年)、蜷川実花「残照 / Eternity in a Moment」(⼩⼭登美夫ギャラリー前橋、2023年)、「蜷川実花展 Eternity in a Moment 輝きの中の永遠」(TOKYO NODE、2023年-2024年)、「蜷川実花展 with EiM:儚はかなくも煌きらめく境界」(弘前れんが倉庫美術館、2024年)など。